※ガイ六神将パロ







 夕焼けと血の緋に、てらりとひかる刀身が、鞘に収められる。

 澄ましている訳ではないのだろうに、そういう所作ひとつさえも青年は優雅だ。
 奇妙に優雅な、殺戮者の物腰。容赦なく返り血を浴びた青年の立ち姿は、まるで夜叉そのものだった。
 天上人のふりをした、戦場を統べる高潔の破壊の主。

 
 金糸の彼の髪は、沈みかけた陽が醸す、空の朱から紫紺へのグラデーションによく映えた。彼に特別に総長が用意した黒尽くめの戦闘服もまた、闇に染まりかけの世界に溶け込むようで、ひどく似合いだった。




「なあシンク、――人に魂があるって、信じるか」



 溶けて、ふるえて、音譜帯に吸われて、心はなくなるものかな。
夢病者のたわごとみたいだと、シンクは仮面の下の表情を顰めてみせた。馬鹿なことを、言う。


 生まれてこの方何も宿したことのないものに、問い掛けて返る言葉を信じる方が可笑しい。
瞬閃のガイラルディア。どれだけ優しく振舞っても、他のなににもなれない無垢で残酷な、やはり何処までも人間にしかなれないおまえ。




「……知らないよ、そんなこと。興味もないね」



 血染めの戦場に慈悲はなく、反逆者達はダアトの正義によって裁かれ朽ち、粛清は成される。シンクは無感情に、べっとりと手に残った返り血を教団服で拭った。
 死なんて、拙いものだ。

死んでしまえば皆同じ。魂があろうとなかろうと、それは中身のない死体である事実しか残らない。



 シンクが踵を返すと、ガイラルディアは築かれた夥しい数の骸たちに一礼してみせてから、それきり拘る様子もなくあっさりと身を翻した。与えられた任務は完遂したのだから、もう彼の頭には、愛しの主席総長しかいないのかもしれない。
 粉々に砕けてしまったばらばらの魂を、今も抱え込んでいる。
 ガイラルディアが繋ぎ合わせて後生大事に持ち込む断片は、彼が唯一望む従者であったり、誰も自身を痛めつけない平和な世であるのだろうか。シンクには理解ができなかった。






 どうにも人の世話を焼きたがる気質なのか、あれこれと周囲に口を挟み、よく笑うお節介な人間――そういう印象のみだった総長お気に入りの小奇麗な青年が、オリジナルを消滅させレプリカ世界を生み出すことに賛同する理由を、かつてシンクは聞いたことがある。




『レプリカなら、綺麗かもしれない』



そのとき寒々しいほど美しく笑って、青年は謳ったのだった。


『人は、どうしても根本的な所で変えられないだろ。誰しもが醜さを否定できない。――けど、レプリカなら』
人とは違う、綺麗な綺麗な、レプリカならば、――と。








 シンクはそのとき悟った。嗚呼、こいつも既に狂ってる。
人間と等しい血肉を分けた、劣化複写品とはいえ感情という類似品まで内包する其れに、一体どんな理想を見ているのか。
 笑って遣りたかったけれど、結果として笑わなかった。此れでは自分を嘲うのと同じことだと知っていたので。



 全くもって馬鹿馬鹿しい話には違いない。初めから「信じている者」にシンクが何を言おうと、彼の答えが変わる筈もなかったのだから。




 多分、ヴァンの下に集った連中は、何処かしら壊れているのだ。正常に機能している様にみえて、実際はひとつの命令をリピートする譜業人形でしかない。うつろで、中身のない、――破綻と紙一重の狂人たち。

 そしてそれはヴァン自身も、ヴァンが跪いて手の甲を恭しく取る、美しい青年も等しく違わないのだろう。
 欠けたものに気付かず気付いていても気にも留めずに、自分達だけの宴が始まるのを今か今かと待っている。